りきまるが家に来た日の翌朝(3ヶ月と3週)
2008年6月7日、富士宮犬舎生まれ。日本犬保存会の登録名は桜力丸。 父は桜王、母は力姫という名前で、それぞれ一文字ずつもらって桜力丸という名前が付けられていました。 ほんとうに良い名前だなって、今しみじみと感じています。 〇〇丸という名前は、平安〜江戸時代に使われた男の子の幼名。 そしてりきまるは、文字通り私たちの子供に等しい存在でした。 ペットであるりきまるは、人間と違ってその一生をずっと子供として生きていいわけです。 桜と力という文字も、美しい見た目と強い心を持ったこの子に本当にふさわしいものでした。
りきまると初めて会ったときのことは、鮮明に覚えています。
この写真はその時の写真です。
その日、(2008.9.23秋分の日)妻が今からその犬舎に行こう、と休日の午後、昼寝をしている私を起こしました。
その犬舎とは、最近、柴犬を飼いたいねということで、webで下調べしていた富士宮犬舎のことです。
まあ、見るだけというつもりで、予約もなく富士宮犬舎に行くだけ行ってみました。
私たちは犬舎のおじさん(鈴木さん)の軽バンに乗せられ、犬舎に通され、まず初めにりきまるを見せられました。
写真のとおりケージの中で、にこにこ元気に笑っていました。
もう少しで4ヵ月という月齢で、鈴木さんから、この子がどんなに素晴らしい柴犬か、見た目、賢さ、
気の強さなど、そして良い犬の条件を色々教えていただきました。そして、
「こいつは気が強いんだ。何しても絶対にしっぽを丸めない。」と鈴木さんは言いました。
(実際、りきまるは一生の間に、一度もしっぽを丸めたことはありませんでした。)
ただ、残念なことに最近この子に欠歯があることが分かってしまったとのことでした。
下の両方の犬歯の間には、本来前歯が6本のところ、りきまるには5本の歯しかありませんでした。
特に歯並びが悪いということもありません。
しかし、欠歯があると、品評会には出せないそうです。(正確には出す意味がないということだと思います)
でもそれ以外は完璧だから繁殖に使おうかどうしようか考えている、などと言っておられました。
どおりでいい名前が付けられていたはずです。
りきまるのお父さんの桜王も見せていただきました。
桜王は品評会でいくつもの賞をとっている柴犬ということで、実際、他のどの犬とも違う雰囲気がありました。
私が子供の頃に、香川県のこんぴらさんでいっしょに写真を撮った、土佐犬の横綱と同じような覇気をまとっていました。
彼らは、所謂ペットではありません。
種の保存を守るために特別な役割を担っている、選ばれた犬たちだということなのでしょう。
次に通されたのは、まだコロっとした感じの小さな子たちが走り回っているところで、
―決して失礼な感じではなく―「あんたちが欲しいのはこういうのだろ?」と鈴木さんは言いました。
まだ母親の元で、一緒に生まれたのであろう兄弟犬たちが、跳ねたり転がったりして遊んでいました。
もちろん可愛いに決まっています。しかし違いました。
あんなに美しい柴犬を見せられて、こんなコロコロしている子犬の方が可愛いなんてとても思えませんでした。
りきまるを飼い始めてしばらくしたころ、それより何か月か前に見て、まったく忘れてしまっていた夢のことを思い出しました。
そこにあるすべての物は真っ白で、静かで、穏やかで、とても明るい病室のベッドに私はいました。
私の着ているものも、ほかの患者さんと思われる人たちも同様に、すべてが白でした。
たしかそれは6人部屋で、私はベッドを起こして、ゆったりと座っていました。
ここは地上ではない天国に近いところの病院だと私は感じていました。
そして白い柴犬のような小犬を抱っこした看護師さんが、わたしのところへやってきて、
「どうですか?」といってその子を私に抱かせてくれました。そして、
「うん、大丈夫そうですね。」とその看護師さんは言いました。
ただの夢かも知れません。でもきっとあれが、この世に生まれる直前のりきまるだったのだなと思いました。
話は犬舎に戻ります。
一通り見せてもらい、妻は
「あの子(りきまる)は譲ってくれないのかな。」と私に小声で言いました。
無理じゃないかなと思いながらも、鈴木さんに聞いてみました。
「うーん」と言いながら、鈴木さんはりきまるをケージから出してくれました。
この時のりきまるは、地面に慣れておらず、足腰がおぼつかない様子でした。
「どうだ?おじさんの(お兄さんだったかも)のところへ行ってみるか?」と鈴木さんはりきまるに言いました。
りきまるは地面の匂いを嗅ぎながら私に近づき、私の安物の革靴の先を軽くカリカリとかじりました。
そしてこの時はじめて、りきまるの名前とその由来を聞かされました。
一般に血統書の名前には縛られずに、家庭犬となったらそれぞれの好きな呼び名をつけるようですが、
この名前を聞いて、それ以外には考えられないと思いました。普段フルネームで呼ぶことはありませんが、
りきまるという名前そのままを呼び名にしました。
軽い気持ちで訪れた富士宮犬舎でこの日、私たちはその場でりきまるを飼うことに決めてしまいました。
犬を飼うことは初めてではなく、それなりの覚悟が必要だということは十分に分かっています。
その時は躊躇する気持ちもありました。
もちろん軽い気持ちで決断したわけではありませんでしたが、縁があるというのはこういう事なのかも知れません。